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においのある空間は同時にSMが絵になる空間でもある。

海外のSMが女王様主体のボンデージなSMなら、

日本には少しばかり前までじっとりとしたSM美が確かに存在した。

面白いものでSMも社会の波をもろに受けて、そんな空間自体めっきり減ってしまったけれど、

やはり和の空間というのはその宝庫である。

(社会の波といえばM男の急増も外せないが、これはまた改めて)

例えば、畳のにおいであるとか木材の臭い。

線香の香りも悪いものじゃないし、香取線香も素晴らしい。

雨が降ったときの和室独特の湿気のにおいも素敵だ。

その他、かすかに庭から香る樹木のにおいや、押入のすえたにおい。

書斎の本、土間の土、ひのき風呂、トイレ、雨戸を閉めた時の独特のにおい、

蔵の冷たい空気、つくばいの苔、水盆の淀んだ水の香り...等々

それらはSM的媚薬とさえ言えるほどに我々(あるいは俺だけ?)を魅了する。



現実問題、我々はラブホテルやシティーホテル等でSMを行うわけであり、

それは仕方のないことではあるのだが、

いくら最上階のスウィートを取ろうが、味という点においては上記に遙かに劣る。

ラブホテルなら尚更だ。

そういう意味で、昔の日本建築は実ににおいが豊かであるし、これほどSMが絵になる空間もない。

これに照明という要素を加味することにより、それ自体SMを行うに完璧なダンジョンとなる。



話が逸れるが、ついでだから照明について少し触れておこう。

SMに似合う照明は二種類あり、

一つはほんのちょっとしたところから差し込んでくるわずかな明かり、

もう一つは、下からの明かりだ。

特に下からの照明の効果は絶大で、上から照らせば単に明るいの一言だが、

それが下からとなれば何とも言えない雰囲気があり、幻想的であり幽玄だ。

満開の桜を下から照らすなどその典例だろう。

畳の部屋に百目蝋燭一本置いただけでもその雰囲気は素晴らしく妖しいものになる。

何故これが我々にとって幻想的であるのかといえば、一説には、

日常ではありえない角度からの光源であるので新鮮に感じるからであり、

もう一説には、下からの明かりそれ即ち古代人の薪であり、我々日本人なら囲炉裏の火であり、

DNAレベルで働きかけてくるものがあるという。

最もつまらなく、それでいて最も主流なのが上からの蛍光灯の明かりだが、

とにかく、照明については別項で詳しく述べる必要がある。



M女の正装は和服であると個人的には主張するが、

同時にそれは最も日本建築に似合う服装でもある。

海外のSMの場合、ボンデージファッションといういわばSM専用の服装に着替えるわけであるが、

日本の場合、少し前までは普段着の着物や襦袢のままで縛られたりしていた。

これこそまさに日常の中の非日常である。

これについては長くなるのでまた他項にて。



においというのは人の記憶に強烈に働きかける。

何かのにおいを嗅いだ瞬間、懐かしい昔の記憶がぱっと広がるのは俺だけではないだろう。

例えば畳の香りで緊縛を思い出すならば、更には相手の男を思い出すならば、

これほど調教師冥利に尽きることはない。

女性によっては緊縛という事実よりもにおいそのものを思い出にする場合もある。



縛り、鞭打てばそれも立派なSMだが、そこに照明やらにおい等の要素を加味するならば、

その範囲は建築にまで及び、こうなれば茶道やら華道の精神に通ずるものがあると書けば、

そっちの方々からひんしゅくを買いそうだが、

とにかく、あれこれ興味を持ち始めれば精神性のみならずその他においても非常に奥の深い世界であり、

年を重ねる度にそういった興味が尽きない。

これもSMの一つの楽しみだろう。



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