世間一般からすればＳＭプレイにおける我々責め手、
つまりご主人様はさぞや偉そうに映っていることだろう。
普通ならとても考えられないような命令が、あたかもそれが日常生活の一部のごとくまかり通ってしまうのがこの世界だ。
しかし、その陰ではパートナーのために相当の努力を払っているという事実を忘れないで頂きたい。
一旦プレイが始まれば、Ｍ女性の資質に対してご主人様の技術が正面から問われることになる。
後者が前者を上回っていれば、お互いに楽しいひとときを過ごせるだろうし、
このバランスがＳＭにおけるパートナーシップにおいて理想の形だと私は思う。
しかし、それが逆であればどうか？
つまり、Ｍ女性の資質がご主人様の技術を上回っている場合だ。
ＳＭプレイにおいてこれほど惨めなものはない。
これは私も経験している。
調教師として駆け出しの頃、幸か不幸が真性のＭ女性とプレイする機会を得た。
しかし、いざ始めてみれば正面切って口には出さないものの、
彼女の資質ゆえの欲求は私の技術レベルではとても満足させられない程に高いもので、
「世の中にはこんな凄い女性もいるのか」と、ただ圧倒させられるばかりであった。
こんな時のご主人様ほど惨めなものはない。
身を持て余したＭ女性を前にして、次に何をしていいのかも分からず、ただオロオロするばかりだ。
こうなると、既にご主人様と名乗ることさえおこがましい。
当然のことながら、そのプレイは実にシラケたものとなり、どちらが言うともなしに尻すぼみで打ち切られた。
「今日は技術不足で君を満足させられなかったけれど、ＳＭについてはまじめに考えているので、
これからもたまに会って経験を積ませてくれないか？」
本来ならば正直にそう言うべきだったろう。
しかし、当時まだまだ青かった私は、
「今日はちょっと体調が悪くてね。本当はこんなもんじゃないよ」などと、かっこつけてぬけぬけ言ってしまった。
彼女は黙って聞いていたが、そのとき一瞬「フン．．．」と鼻で笑われたような気がした。
駅での別れ際、私が「また連絡するから」と言うよりも早く、
「私の電話番号とか住所全部消しといて」と、視線も合わさずに冷たく言い放たれた。
さよならも何もあったものではなく、その言葉が消えるか消えないかのうちに彼女は足早に去って行った。
とても惨めであり、また、腹立たしくもあった。
しかし、まだまだケツの青い私ではあったけれど、
その腹立たしさを彼女に向けるのではなく、自分自身に向けるだけの分別というか度量はあった。
そして、その日を境に私のＳＭに対する姿勢はただ何となくの遊びから、
一種の学問と表現すれば言い過ぎかもしれないけれど、とにかく真剣に考えるようになった。
いくら相手方の希望もあるとはいえ、勇気を出してＳＭプレイを許容してくれる女性に対しては、
好みに応じてそれなりにオールマイティーな対応ができないことには話にならないと思ったのだ。
そして、その中から自分の好きな分野を更に突き詰めていけばいい。
ＳＭ関係の本を読み漁った。
ビデオもメモを取りながら沢山観た。
話を最初に戻そう。
世間一般からすれば我々ご主人様は、さぞや偉そうに映っていることだろう。
しかし、それは陰でちゃんとした対価を支払っているからこそだ。
偉そうに見えるのは良好な主従関係の証でもある。
プレイにおいてＭ女性はただ本能のみをもって接すればいい。
しかし、我々ご主人様はそうはいかない。
どこかで本能をセーブする必要がある。
本能のおもむくままに接すれば最悪の場合死に致ることもありうるのだ。
初心者の方は十分に注意されたい。
女性の体に傷を残すようなプレイも言語道断である。
また傷までいかなくとも、女性を麻縄で縛った後には必ず跡が残る。
パートナーに彼氏がいる場合、または結婚している場合、
何も考えずに縛ってしまうと多大な迷惑を掛けることになる。
跡が消えるまでにはどれくらいの時間が必要なのか？
使うならそこまで把握していないといけない。
このようなことは他の全てにも言える。
よって、我々主人様は肉体的快楽の追及は言うに及ばず、
精神的快楽、衛生面、安全面等々、知っておかなければならないことは多岐に渡る。
それらに加えて前回述べた感性という実に抽象的な分野も必要だ。
更にはそれらを一定レベルに維持しなければならない。
「あれ、亀甲縛りってどうやるんだったかな？」、これではダメだ。
プレイ後の食事等の世間話においても、Ｍ女性の話の内容に対してとんちんかんな返答しかできないようであれば、単なるスケベ男に成り下がってしまう。
一般常識の無い男にご主人様は務まらないと言うか、ご主人様を務めるには高いセンスが要求される。
ご主人様にダンディーが多いのはこのことに起因するのではないか。
偉そうに書いてきたが、私とてまだまだこれからだ。
このサイトと共に、そして皆さんと共にいろんな面で成長して、ダンディーと呼ばれるよう年を重ねていきたい。
銀髪の紳士に妖艶なＭ女。
何とも素敵な組み合わせではないか。
Ｍ女性には和が良く似合うと書いたが、
こうなるとおもいきりドレスアップしてワイングラスを傾けつつの高級フレンチも悪くない。
嗚呼、素晴らしきかなＳＭ人生。
ｓｈａｄｏｗ
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