タイトル：マッチ売りの少女
雑記で新世界のことを書いたら、ある話を思い出した。
それは今から七、八年ほど前のことで、新世界のとある串カツ屋で隣合わせになった酔っ払いのおじさんから聞いたものだ。
そのおじさんは狭いカウンターで一人ちびちび冷や酒を飲んでいたようだが、私たちが隣に腰掛けると、これ幸いと思ったのか一方的に話しかけてきた。
悪い人でもなさそうなので無視するわけにもいかず、連れとの会話の合間、たまに振り向いては「ふん．．．ふん．．．」と話の内容も分からぬままに相づちを打ったりした。
そんなある時「兄ちゃん、ワシこないだマッチ売りの少女見たでえ」、確かそんな始まりだったと思う。
タイミングが良かったのか、掴みが上手かったのか、とにかく私はちょっと聞いてやろうかという気になった。
話はこうだ。
新世界からそう遠くない距離に天王寺公園というのがある。
隣には動物園もあるその公園は広大な敷地を持ち、夏は覗きのメッカであると共に私にとっては格好の野外調教のポイントでもある。
夜、マグライトで女性の秘部を照らせば蛾のように覗き達が集まってくる、そんな場所だ。
ある夜、そのおじさんが公園のとあるベンチに独り腰掛けていたら、人影が寄ってきた。
近づいてくると、それは二十前後の若い女性だったそうで、彼女は暗がりの中こう言った、
「おじさん、マッチ一本５００円でどうですか？」
「？？？？？」
「今日は風もないし、よく見えますよ」
「？？？？？」
あっけにとられたおじさんをよそに、彼女はスカートを腰までめくるとベンチに腰掛け、膝を立てて脚を大きく開いた。
ノーパンだった。
しかし暗いので、秘部の色形までは分からない。
再び彼女が
「マッチ一本５００円でどうですか？」とたずねる。
今度は意味が分かった。
そして、おじさんはマッチを買った。
私はビールを啜りながら、マッチが燃え尽きるまで鼻の下を伸ばしてあそこをまじまじと眺めているおじさんと、ベンチであられもなく開帳している若い女性の姿を想像した。
いかにも天王寺公園らしい話で、猥褻さの中にも風情がある。
昭和２０年代、一銭ブームというのがあった。
一銭寿司、一銭天ぷら、一銭洋食等々．．．何にでも一銭という言葉を付ければ飛ぶように売れた。
そして、十銭芸者。
浮浪者や日雇いのたまり場であった今宮などで路上においてささやかな宴を開く時、彼らはその日の上がりのいくらかを割いて十銭芸者を呼んだりしたそうだ。
彼女たちも袖のすり減った着物ではあったが、水道水で髪を掬っては紅の一本も引いた。
浮浪者たちも粋な時代であった。
天王寺公園においても、そんな宴が開かれていたに違いない。
私の頭の中では十銭芸者とそのマッチ売りの少女が何だか重なって見えた。
「本当にいいものを見ましたね」世辞でなく心からそう言うと、その酔っ払いはもう今の話は忘れたのか、
「兄ちゃん、ここの店はうずらがおすすめやでえ」と赤ら顔で答えた。
問わず語りではあったが、その話は私の心の中に深く居座り、以来、ノーパンという甘美な響きは日に日に増殖し、現在のプレイスタイルに多大な影響を与えることになった。
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