贄宴
薄暗い石造りの部屋。
明かり取りの向こうの深い闇。
私は葉巻を一本抜いて女に五歩近づく。
夜目に眩しいランタンの灯とラビアに埋め込まれたダイヤ。
そう、あれは私が埋めたのだ。
更に二歩近づくと、葉巻の先で無様に拘束された女を軽く撫でる。
首筋を、腕を、胸を。
女の身体には香水が微かに振られており、上昇した体温で揮発している。
息を止め、ゆっくりと香りを吸い込む。
贄に供されるというのに、おまえは自分で振ったのか?
よろしい。
私は心地良い満足を覚えるとしばしテーブルで葉巻を楽しむ。
聞こえるのは虫の声、木々のざわめき、皮の軋み。
更に目を閉じれば馬舎の微かな蹄と従者たちの団らん。
そして中庭の泉で溢れる水の音を私は感じることができる。
もちろん、何にも増して魅力的なのは口枷から漏れる女のうめき。
サイドボードのワインを一口運べば胃の中で生牡蠣がうごめく。
おまえたち、レモンは足りたか?
丘陵を駈け上がる風がまたダンジョンを抜ける。
それは灯を撫でて刹那辺りを暗くするが、まるで意志あるもののように炎は蘇る。
そう、この部屋は私の意思、私の分身、私の臓器。
迷い込んだ蛾、動く影、舞う粉。
鞭を一振りすればたやすく葬れるが、夜の私は殺さない。
せっかく来たのだ、共に一夜を楽しめばいい。
見廻りの靴音が廊下を通り過ぎる。
この部屋の異常さを除けば全てが正常に機能している。
よろしい。
梟が一つ鳴いた。
午前零時の懐中時計。
そろそろ宴の始まりだ。
女の身体にレモンを一つ絞る。
今宵、不気味に欠けた三日月は雲間から現れるだろうか?
shadow
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