思い出の車窓

阪急電車で梅田に向かう機会があるたび、俺は十三(じゅうそう)の駅に着くと必ず読みかけの本を閉じ、向かって右側の扉付近に立つ。

この行為は既に俺にとって儀式のようなものだ。

電車が発車すれば、そこに見えてくるのは十三大橋。

shadow的野外露出の登竜門でもある十三大橋~中津~梅田間には実にたくさんの想い出が詰まっている。

それら想い出の場所がことごとく車窓から見渡せるのだ。

様々な命令を出し、様々な写真を撮った。

そう、その場所で、あの場所で。

微妙な表情、さりげない会話、車のクラクション、缶コーヒーの香り。

案外些細なことまで覚えているものだ。

よみがえるそんな記憶が心地良く、また、時に寂しい。

空いた電車に一人立ち、車窓からの風景に見入る私はまるで子供のそれであり、けれども既に子供のように純真無垢ではなく、しかし、やはり純粋な気持ちで彼女たちを思い出す。

この儀式は俺の密かな楽しみであり、彼女たちへの義務でもあるように思う。

俺はいつまでも忘れない。

電車が梅田に着くと、しばしの夢の世界から現実に戻らなければならない。

余韻を楽しみながら階段を降り、改札を出て凛とする。

再び巡り会うその日まで、恥ずべき事なく生きるのだ。

雑踏の中でそう思う。

shadow

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