ドクターバック

母が自宅療養していた頃、週に二度医者が往診に来た。

ほとんどが昼間ですれ違いだったのだが、それでも何度かは立ち会うことができた。

まあ、母の話は横に置いておくとして、その往診に来る医者はがま口財布をそのまま大きくしたような革製の黒くて大きな鞄をいつも下げてくる。

あれをドクターバックと呼ぶのだろう。

一旦診察が始まればその鞄から血圧計やら脈拍計やら補聴器やらその他諸々が、まるでドラエモンのポケットかと思われるほどに次から次へと出てくる。

それを見たとき、俺の意識はちょっとSMの方へ飛んでしまった。

現在、俺は調教依頼の際、事前に希望の内容を女性から聞いて、その調教にしかるべき道具をその都度鞄に入れて持参しているが、そうではなくて依頼内容とは関係なしに、いつも俺のお気に入りの責め具の数々を持っていくのはどうか?

この医者みたいに...

そんなことをぼんやり考えた。

その際、こんなドクターバックがあれば便利だろう。

例えば、貴女が俺に調教依頼メールを出したとして、待ち合わせに場所に現れた俺のドクターバックにはあらゆる責めを実現可能にする様々な用具が理路整然と詰められている。

現場での不意の展開にも十分に対応可能だ。

使うも良し、使わないも良し。

ちょっと良くないか?

バンダナ一枚あれば十分にSMは楽しめるという考えは今でも変わっていないが、金銭の授受こそないものの、例えば一日体験などの依頼を受けるようになってからは精神的に少しプロの意識も芽生え初めているので、ならばあらゆる事態に対応できるようにすべきではないのか?

という考えの元、こんな鞄を一つ持つのも悪くない。

ドクターバックなら30アイテムは楽に収納できるだろう。

まあ、なんだかんだ言いながら、まるで医者の鞄が魔法の小箱のように見えたので、ちょっと子供のように欲しくなっただけのことだけど。

ある日、待ち合わせ場所にドクターバックを下げた俺がいたなら、みんなは喜んでくれるだろうか?

shadow

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