5.15
大阪から帰ってきて、ご主人様に電話をした。
「いま、話し中なんだ。1時間後くらいにかけて」と言われて、
お話し中のところに申し訳ないなあと思った。
1時間を少し過ぎて電話したら、留守番電話になっていたので、メッセージを残して切った。
かおるは電話はあまり好きではない、というか、どちらかというとキライ。
なぜって、電話したときに相手が忙しかったり、留守だったりしたら嫌だし、
第一、こちらの一方的な都合でかける電話ってずうずうしいと思う。
それでもご主人様のところにはたくさん電話がかかってくるらしいし、
ご主人様はそれはそれで楽しんでいらっしゃるようなので、かおるもしてみたのだ。
でも、結果としては「申し訳ない」という気持ちと、お留守のがっかり感で、
「やっぱり電話なんかしなければよかった」と思った。
かおるは、携帯電話はいつもマナーモードにしていて、登録してある人からの電話にしか出ない。
自分からかけることはめったにないし、「電話で話したい」と思うこともめったにない。
だから、(会ったこともない)「ご主人様と電話で話したい」と熱望する女性たちの気持ちはよくわからない。
「(ほかの女性に)電話調教ならいいけれど、ただの電話はいやだ」とかおるはご主人様にだだをこねる。
ご主人様は「電話で話したいって言っているんだから、話してやらなきゃ」と、
シュミなのか、義務感なのかわからないけれど、律義に応対される。
かおると一緒にいるときも、ときどき電話をチェックしていらっしゃるので
「かおるよりも気になる人がいるのかな」と思うこともある。
今回、ご主人様といっしょにいるときに、ヒナさんから電話がかかってきた。
「ヒナからだ」と言われるので「出てください」といって、かおるは隣りの部屋に行った。
といっても声は聞こえてしまうのだけれど。
ご主人様はこのうえなく優しい声で応対されていた。
かおるは、電話で「調教」されたことがないので、
電話で調教する(される)ということがどういうことなのか、興味があり、嫉妬もあったのだ。
ご主人様はずっと、甘い、とろけるような声でしゃべりながら応対して、その調子でさりげなく
「ヒナ、服を脱げ」と命令している。
そして、「おい、かおる、こっちへ来い」と呼んだ。
電話の向こうにいるヒナさんのために、かおるは音を出してフェラチオをしろと言われ、
ご主人様よりも前にかおるがイってしまった。
ヒナさんは泣いているみたいだった。
かおるは、ヒナさんと話せて、嬉しいとか、悲しいとかではなく、なんだかほっとした。
ヒナさんはかおると話せて嬉しいと言ってくれた。
かおるも、ヒナさんとは話してみたかったから、そういう意味では嬉しかった。
「俺はな、いつかおまえとヒナは交わると思う」と、ご主人様はおっしゃる。
ご主人様はどうも、女性同士で交わらせたいと思っていらっしゃる感じがするのだけれど、
かおるとヒナさんなら、エレガントどうしで、ちょっと見ごたえがあると思われているかもしれない。
ヒナさんとかおるが逆だったら、かおるはどうしただろう?
かおるは、ご主人様が話し中だっただけでどーんと落ち込むタイプなので、
「もしかしたらだれかと話しているかもしれない」とか「もしかしたらだれかと一緒にいるかもしれない」
と思い煩うよりは電話などしないほうがいいと思っている。
かけるときにはわくわくするけれど、切ったあとが淋しかったり、むなしかったりするのもいやだ。
それでもご主人様の声を聞けば安心するし、嬉しく思う自分がいる。
留守番電話のメッセージを聞いて、ご主人様が電話をくれた。
「電話しないと、また拗ねるからな」
このご主人様のやさしさがクセになったらどうしようと思う。
ご主人様はかおるとは調教も長話もなさらないけれど、
それもまた飾らないご主人様なのだと、かおるは思っている。
5.16
「おまえ、荒木経惟って知っているか?」とご主人様に聞かれた。
「アラーキーはもともとSM写真を撮って有名になったらしいんだけど、どんな写真を撮っていたのか、
見たいんだ。書店に行ったけれど見つからなくてな」
かおるは1度だけ、アラーキーに会ったことがある。
たぶん、ご夫人が亡くなった直後の出版記念パーティーだったのではないかと思う。
麻布の小さな、小さな画廊で、写真展が開催され、かおるは業界人の友人に誘われて
(結果的にはひとりで)出かけたのだが、あまりよく覚えていない。
芸者さんのような粋なおねえさんを二人、両脇にして、
アラーキーがふらふらと出ていかれたように記憶している。
そのアラーキーの写真集を買った。
「緊縛」と「写狂人大日記」の2冊。
書店ではビニールがかかっていたけれど、それほどはずかしくはなかった。
ついでに、かねてから気になっていた「伊藤晴雨写真帖」という写真集も買った。
伊藤晴雨という人は、大正時代後期から昭和中期まで、その生涯を「責め絵」に捧げた浮世絵師であり、
その秘蔵の写真を集めた1冊である。
実際に内容的にどうだったかといえば、アラーキーは「まあ、こんなものかな」という感じ。
「アラーキーらしさ」はそこここにあるとはいえ、品も格もない写真は、カジュアルというよりも
「下世話」という感じがする。
サブカルチャーというほどの強烈な社会風刺や批判精神を感じることができないように思えた。
一方、伊藤晴雨のほうは「責め絵」という、少々おどろおどろしい世界ではあるものの、
情感が溢れている。
写真の「格」というものがあるとしたら、かおるは伊藤晴雨のほうがずっと上であろうと思った。
そのふたりの写真集で共通するものがなにかといえば、「妻」の存在だ。
伊藤晴雨は、納得がいく責め絵写真を撮影するためには単なるモデルではだめで、
妻にするしかないと考え、コレと思う女性を妻に娶った上で緊縛を強いる。
大雪が積もった庭を見て、全裸の妻を縛って3時間もモデルにして凍死寸前まで追い込んだという逸話は、
伊藤晴雨の執念に対する妻の愛を感じて、かおるは感動してしまった。
晴雨は、妻が妊娠すると、かねてより望んでいた「妊婦の逆さ吊り」をさっそく試し、
掲載された雑誌は発禁処分を受ける。
それ自体は残酷で、妻もその都度死に掛けるというのに、それでもモデルとなり、
妻しかできないであろう過酷な画像を共同で生み出していく。
そうはいうものの、財産のすべてを責め絵のために使い果たし、
何度も牢獄に入る生活力のない晴雨に、さすがの妻も結局は愛想をつかす。
にもかかわらず、何人かの愛人を囲い、性懲りもなく結婚するも、
最後の最後まで責め絵一筋で他界するあたりは、伊藤晴雨はあっぱれとしかいいようがない。
ちなみに、伊藤晴雨の本の帯には「女は縛ればもっと美しくなる!」と書いてある。
かおるは、縛っていただいたときの写真と、素の写真では、100倍くらい、美しさに差があるので、
その帯の一文が笑えるほど納得してしまった。
かおるは自分のことをきれいだと思ったことはないけれど、
縛って撮影していただいた写真については、どう見ても「きれい」に見えるので、
「さもありなん」と思わずにはいられなかったのだ。
ところで、アラーキーといえば、周知のごとく、たくさんのガールフレンドがいたにも関わらず、
奥さんのことは別格に最愛だったということである。
「結局ね、ふたりとも、奥さんがちゃんといたんです」というと、
なにを思ったのかご主人様は「それなら、みんな平等に愛せばいいんだな」と言われた。
「そうじゃないんですよ。最愛の奥さんがいたからバランスがとれたんです。女性というのは
そういうものです」というと、「ふーん」と気のない返事をされた。
かおるは、かおる自身がご主人様とケッコンできたらいいのにと思うことがあるけれど、
もしそうでなくてもやはりだれかがご主人様の伴侶になってほしいと思う。
そうなれば、奴隷の飼育はご主人様の趣味として、ハムスターや猫を飼うようなものだと理解する
ことが容易になる。
でもいまは、かおる自身がハムスターだとは思いたくないし、思えないところがなんだか悲しい。
ハムスターはひとつのケージに2匹以上入るとテリトリー意識があるのでケンカをする。
でも、別のケージに入っているものの顔が見える相手のことはどう思うのだろうか。
伊藤晴雨は「女はだまして使うもの」と言い残して、2日後には他界する。
5.18
ご主人様は現在のところは少なくともだれよりもかおるのことを考えてくださっているし、
かおるのためにヒナさんとメール交換をする機会も与えてくださった。
ヒナさんには毎日のようにメールを書き、返事をいただく。
ヒナさんはかおると違って、ご主人様と電話をしたりメールをやりとりする限られた時間、
ご主人様がヒナさんのことだけを最大限考えてくださっているということを奴隷の歓びとして
受け入れ、たくさんの奴隷を調教するご主人様を「調教のプロ」として尊敬している。
かおるは毎日ヒナさんに、ご主人様の「奴隷」ということを考えさせられる。
ここのところずっと眠れなくて、昨夜もやっと5時くらいに寝たというのに、
朝は結局8時前には目覚めてしまった。
ご主人様はもうお出かけになられただろうか?
「寝不足だからおまえはロクなことを考えない」とご主人様はおっしゃる。
ご主人様に縄化粧していただいているときは、満ち足りた睡魔に襲われる。
そのときのことを思い出して、しあわせなことばかり考えて眠りたいと思うが、
ひとりでベッドに入ると、しあわせなことや楽しいはずだったことがなぜかかおるを眠らせてくれない。
朝、ご主人様を想った。
ベッドのなかで「おはようございます」とつぶやいた。
ぼうっとした頭のなかで、「ご主人様、愛してます」と何回か呪文のように繰り返した。
かおるの日課。
なぜかわからないけれど、かおるの頭のなかはちっとも整理されない。
ご主人様を愛し、愛され、なにが不満だというのか・・・
かおるはだんだん、ご主人様に「調教していただく」ことよりも、ご主人様を求めている・・・
ご主人様はかおるのことをずっと心配してくださっている。
ありがたいし、申し訳ない。
ご主人様も特にいろいろな課題やメニューを与えられようとはしない。
自主トレするタイプじゃないということもあるけれど、調教や飼育という言葉とは違う世界を、
ご主人様はかおるにお与えになられた。
ご主人様が年寄りになられたときに、いっしょになっておこたでビデオを見たりしたい。
そんな先のこと・・・って、笑われそうだけれど・・・
これから先ご主人様には、日々奴隷の方達が集まってくるだろう。
ご主人様のメールがだんだん届かなくなって、だんだんお会いできなくなっていくなんて、
そんな想像をするほうが間違っている・・・
そう思っても、それは数年前に癌で他界した父が、日一日と弱っていく様子を連想させた。
きのうできていたことが、今日はもうできない。
赤ちゃんがだんだん成長していくのと反対に、人生を逆回転するように父はだんだん動けなくなって、
最後は水を飲むことすらできなくなってこの世を去った。
あたりまえのようにできていたことが、たった1日でできなくなってしまう不思議。
それは人の力では止めようもなく、どうしようもない運命・・・
ご主人様のかけてくださる縄が好きだ。
縄をしごいているときのご主人様が好きだ。
ご主人様はそんなとき、決して人相がいいとはいえない恐い顔をなさるが、それがまた素敵だ。
ところが、このところ、かおるの頭には「グルメツアー」中のご主人様の笑顔が張り付いてしまっている。
ご主人様の高校生当時の逸話などを思い出して、かおるもくすりと思い出し笑いしてしまう。
ご主人様がかわいくて、いとおしくてならない。
5.20
先日、ある大手有名企業の社長に会った。
その夜、深夜1時すぎに社長が側近の人の自宅に電話をして、
『××さん(かおるのこと)が美人なので、思い出して眠れない』と、
延々1時間半も電話をかけたので困った、という報告(?)をもらった。(過分に冗談だ)
それを聞いて、眠れないほどかおるのことを思ってくれるのが、その方ではなくて、
どうしてあの方ではないのだろうと思った。
コンピュータの信号が0と1しかないように、かおるの愛も0と1しかない。
0と1であらゆる情報が構成されているというのに、かおるは0と1の素数でできている。
今日は久々、ジムに行った。
なにも考えないためには身体を動かすのが一番いいはずだ。
ましてや、運動がきらいなかおるは、ジムでは嫌でも精神を集中する。
汗をかいて、すっきりするかと思ったけれど、そうでもなかった。
ぐったりした身体を持て余しながら、
体内を思わせるゆったりした皮椅子があるリラクゼーションルームでまどろんだ。
だれかに触れてもらいたくて、ジムにあるマッサージルームに行った。
「筋肉はそれほど凝ってないけれど、精神的に疲れていませんか?」と
トレーナーの女性が言った。
体重を測ったら1週間で3キロ痩せていた。
なんだか笑えてしまった。
そんなに真剣だったのか。(それとも、たったそんなもんだったのか?)
かおるの辞書から言葉を消していく。
最後にふたつだけ、「ありがとう」と、「愛してる」だけを残して。
削除、削除、削除・・・
消えていく言葉はきゅんきゅんと音をたててる・・・
5/23
いろいろなことがあって、体重が減って、久々会う人ごとに「痩せたね!」と言われる。
前はよっぽど太ってたのかな。
脳疲労のせいか、昨日はチョコレートをひと箱食べてしまったけれど、体重は変わらず。
今朝、ご主人様が新しい写真をアップされたというメールをいただいたので、さっそく観て、
なんどもイキそうになった。
そこで以前、ご主人様が撮影してくださったビデオを観て、「手を使わずに」イった。
ご主人様はかおるに「脳でイク」ことを教えてくださった。
それはトリップ状態としか言いようがない。
イったあと、股間がどうしようもなく潤って、というか、びしょびしょになっている。
でも、やっぱり、ご主人様にくちゅくちゅしていただきたい。
お口でくちゅくちゅ、
お指でくちゅくちゅ、
そして最後はご主人様御自身を挿入していただきたい・・・。
夜、知人の送別会で行った店で、フランス人のハンサムな青年に声をかけられた。
かおるが「私はフランス語を話す」(じゅまぺーる・ふらんせ)と言ったら喜んでいた。
「何歳?」としつこく聞かれて無視していたら「僕は26歳だけど、25歳くらい?」だって。
へへへ。
気分いいぞ〜。
(ご主人様、ごめんなさい)
ちなみに、その青年は店の従業員なのでナンパではありません。
ご主人様が雑誌の取材をお受けになるという情報。
ますます有名になってドレイが増えるのだろうか・・・。
ご主人様、かおるを忘れないでくださいませね・・・。
心配はつきないけれど、一方ではご主人様が文筆や写真で有名になればいいと思う。
実はかおるは大胆にも、団鬼六先生の花紅舎に、ご主人様を売り込んでいる。
ご主人様はすばらしい才能を持っていらっしゃる。
かおるはご主人様の才能に溺れている。
調教にも。
そして、愛にも。
5/25
今朝、ご主人様が先日撮影してくださった写真のMOが届いた。
すごくHで、すごくきれいなかおるがいた。
まるでかおるじゃないかおるを、ご主人様はいつも切り取ってくださる。
ご主人様の愛に、かおるは感謝している。
ところで、ご主人様が雑誌のアンケート取材を受けることになり、
「ほんとうにM女は存在するのか?」という編集部のギモンにお答えすべく、
かおるが電話取材をさせていただくこととなった。
編集部の担当は、新入社員(?)の女性で、はなからSMとか、ネットで調教されるM女性に対して、
固定イメージを持っているようだった。
かおるは奴隷のなかでもメンタル系で、調教していただくといっても、痛いこととか、
乱暴なことよりは精神的束縛のようなもののほうが大きいし、
ご主人様のメール調教というのはそもそも「テクニック」というよりは
女性の心を捉えて鏡のように反映する(ご主人様いわく)ものだと思っているので、
そのようにお話したけれど、どう理解されたか不明。
彼女のなかでは、
「ふつうのセックスに満足できない女性が、インターネットのSMサイトでご主人様を見つけ、
メールで激しいSM妄想世界を楽しんでいる」
という図式ができあがっているように感じた。
そういう人もいるだろうけれど・・・。
かおるのことは「なんだかふつうの恋愛とおんなじですね」と、つまらなそうにコメントされた。
取材内容はともあれ、
かおるはご主人様がどんなにすてきかということをのろけることができてとても嬉しかった。
ついでに、かおるがどんなにご主人様をお慕いしているかということものろけた。
嬉しい!
かおるのご主人様は、オトコのなかのオトコ、ご主人様のなかのご主人様。
ご主人様のお声を聞きたいけれど、ずっと毎日がまんしている。
だいすきなご主人様・・・・・
愛しております。
5.28
日曜午後6時、ご主人様のお声が急に聞きたくなって電話してしまった。
携帯電話は通じなかった。
話したいと思ったときに話す。
逢いたいと思ったときに逢う。
セックスしたいと思ったときにセックスする。
かおるはそういうのは嫌いだ。
短絡的だと思うし、自分勝手だと思う。
なのに電話してしまった。
通じなくて、淋しかったけれど、ほっとした。
土曜日、ある出版社に行った。
ご主人様が撮影してくださったかおるの写真集を出版できないかという相談をしに行ったのだ。
「撮影した方とはどういうご関係ですか」と聞かれて、思わず「ご主人様です」と答えてしまった。
そして、ここのところずっと訪問していなかったご主人様のサイトを
その場でご紹介することになってしまった。
そこにはたくさんの女性のメールが並んでいた。
久々に見るご主人様のサイト・・・・・・かおるは・・・・・・ちょっと苦しかった。
かおるがいても、いなくても、そこにはご主人様の世界があり、
ご主人様に憧れる方々が集っていらっしゃる・・・・・・。
ひとつひとつが、それぞれ、ご主人様への憧憬と思慕が満ち溢れ、それらのひとつひとつに、
ご主人様が溶けかけたアイスクリームのように甘く冷たいお返事を書いているのだ。
「ご主人様には何人奴隷がいるんですか?」
かおるの思考を割って、質問が投げかけられた。
「さあ・・・・・・。たぶん、10人かそのくらいはいらっしゃるのかもしれません・・・・・・」
「かおるさんは、嫉妬しないんですか?」
「嫉妬は・・・・・・します。でも、ご主人様は調教師だから・・・・・・、
奴隷を調教するのがお務めなんです・・・・・・」
「ふーん。でも、愛奴なんでしょう? ご主人様はかおるさんに調教が甘いんじゃないですか。
だって、調教に満足していたら写真集を出したいなんてやってきたりはしないと思いますよ。
ご主人様の関心が欲しいから、写真集を出したいとか考えたんじゃないですか?
それにご主人様だって、ほんとうに愛しているならこれほどの写真は自分だけのものにして
おくんじゃないですか?」
もとSM雑誌の編集者であり調教もされていたらしいその社長は、
かおるをどんどん「言葉責め」された。
「でも、かおるはご主人様を愛してるんです。ご主人様もかおるを愛してくださっていると思います。
これがご主人様の愛なんです」
「かおるさんみたいな人を野放し状態にしてるなんて、もったいないなあ。
じゃあ、ご主人様がかおるさんをいらないといったら、僕がご主人様になってあげましょう。
僕は愛奴と決めたら、たったひとりをだいじにしますからね」
肝心の写真集のほうは可能性は充分あるけれど、
サイトにアップされた写真以外のものも見せて欲しいと言われた。
「写真はすばらしいですよ。だからこうして、休みの日にまで出てきてお会いしているんですから」
ご主人様の写真を評価していただけただけでも、かおるは充分嬉しい。
かおるはご主人様を愛している。
「結婚するとね『官能』からだんだん遠のいていっちゃうんですよ。
かおるさんも、ご主人様とこうした写真撮影をしていて、
だんだん調教から遠のいているんじゃないですか?」と、その編集者の方に言われた。
そうかな。
ご主人様が撮影してくださる写真は、かおるとご主人様の「官能写真」だと思うんだけれど・・・。
「でもね。ご主人様のサイトを見ないと決めて、かおるの都合のいいご主人様だけ見ているのが
愛なのかなって思うんです。いいところも、いやなところも、なにもかも理解してこそ本来の愛
奴なのではないかと思うと、かおるは愛奴の資格はないのかもしれません・・・・・」
と、かおるは編集部で告白した。
そして、かおるはほんとうにご主人様を愛しているんだろうかと改めて考えたのだけれど、
やっぱり愛しているし、ご主人様のことをだれよりもお慕いしている。
帰宅したら、ご主人様が「電話しろ」というメールをくださっていた。
ご主人様はかおるのことを心配してくださっていたのだ。
嬉しかった。
夜中に電話をして、最後に「かおるはご主人様のことを(1)大好き、(2)愛してる、
どっちでしょう」とうかがったら「愛してるに決まってるじゃないか」とお答えくださった。
そのあとの台詞はかおるとご主人様の秘密・・・・・。
ご主人様、いつもありがとうございます。
5/30
ゆうべ、またまたご主人様にご迷惑をおかけしてしまった。
かおるはどうしても我慢できなくて、ご主人様に電話をして、例によって長話をしてしまったのだ。
ほんとうにダメなかおる・・・ご主人様、いつもごめんなさい。
そして、いつもありがとうございます。
なぜ電話したかといえば、かおるが夜、ある方に「言葉責め」をされたからだ。
その方は「かおる、俺がかおるのご主人様になって、もっともっと、かわいがってやる。俺の愛奴になれ」
とおっしゃった。
「かおるにはご主人様がいるんです」と言うと
「かおるはご主人様の道具にされているだけだよ。
ほかの女性たちの気持ちを釣るために使っているんだよ。
俺だったらそんなことはしない。かおるだけのご主人様になってやる」
と言われるのだ。
その方は低い声で(関西弁で)、レストランのテーブルのむこうから、小さい声でかおるを調教していた。
かおるはご主人様を思い出し、だんだん濡れてきてしまった。
その男性の声はどことなくご主人様に似ているのだ。
目を閉じると、
そこにいるのはここしばらくお会いしていないご主人様だと錯覚することができて嬉しかった。
「かおる、俺は5年くらい、調教をしてなかったんだ。でも、かおるにあって、また復活したいと思った。
かおるを俺の色に染めたい。俺の愛奴にしたい。
仕事柄、モーションをかけてくる女性はたくさんいるけれど、セックスなんて粘膜の摩擦だけのことで
そんなことは一夜限りで終わるだけのことでもう興味がない。」
「かおる、このレストランを出ると、小さなトンネルがすぐそばにある。知っているだろう?
そこにかおるを連れていって、壁に手をつかせて、うしろからやってやることだってできる。
でも、俺は今はやらない。なぜだと思う?俺はかおるの心を縛りたいからだ。おまえは高貴だ。
頭もいいし、仕事もきっとできるだろう。でも、俺の前では淫らな愛奴になるんだ・・・」
その方のお話されることはまさしく「かおるのご主人様」の調教と同じ、「心の緊縛」だ。
かおるのご主人様は、お道具など全く必要としないお方なのだ。
「かおるのご主人様はヴァーチャルじゃないか。メールがきても、かおるに触れることはできないだろう?
ご主人様が愛していると、かおるが思い込んでいるだけだよ。
ほら、こうしている間も、かおるのご主人様はほかの奴隷にメールを書いているよ。
そして、かおるが会えないときはほかの奴隷を調教しているんだ。それでいいのか、かおる?」
ご主人様のことを何も知らないのだから、
堂々こうおっしゃってしまうのも無理がないと言えば無理がない。
けれど、それを一から説明する気分ではなかった。
早くご主人様の声をお聞きしたい。
途中からかおるはそのことばかり考えていた。
お電話で、「東京のご主人様になってもらえとかおるにおっしゃりますか?」とうかがったら、
「はははっ!!」と豪快に笑われた。
昼間にその方からお電話があった。
「shadowの奴隷が何人いるか知っているのか?」とおっしゃられた。
電話を切ってすぐに、そのことをご主人様にご報告した。
他のS男性からこうして口説かれていると知ったら、少しはヤキモチを焼いて頂けるだろうか?
しかし、ご主人様は
「俺のことを呼び捨てにするという一点で、その男性の心理がよく分かるよ。
けれど、おまえはそうしてこれからも男性たちを虜にし、そして傷心させてしまうのだろうな。
みんなの傷が浅いことを祈るばかりだ」
と、気にもされていないご様子。
もっと心配して頂きたかったけど、ちょっとがっかり...
ちょっとしたことがあって、別の方から
「関西に来るのなら、僕のマンションに泊まっていいですよ」というメールをいただいた。
「撮影用に使っているマンションで、フローリングで、SMの道具も揃っていて、静かだし、
落ち着いているし、仕事の話もゆっくりできるでしょう・・・」
SM歴20年というその方に、昼間かおるは間違えて仕事のアドレスを送ってしまった。
「反則だけど・・・ 思わず見てしまった・・・」というお返事のメールのやりとりとともに、
仕事の接点があることがわかり、仕事ともプライベートともわからないメールのやりとりをしていたのだ。
その方は「奴隷」はいないけれど「彼女」は何人かいて、TPOによって使い分け(?)ているという。
嫉妬したりすることもあるけれど「僕なりにつくしているから、なんとかなる」のだそうだ。
奴隷でも彼女でもどっちでもいいけれど、ご主人様に尽くすっていうことはそういうことなの?
かおるはどうしてそういうふうに割り切って考えられないんだろう?
ご主人様に愛していただいているのに、どうしてそれだけを満足することができないんだろう?
そして、かおるだけを愛してくださるという方がいるのに、どうしてそちらに行かないのだろう?
「かおるさんはご主人様とラブラブだから、くどけないってわかりました(笑)」というメールに添えて、
「写真の小道具の選び方がすごくいい」と誉めてくださった。
嬉しい。
ご主人様に出会って以来、かおるはモテ過ぎているような気がする。
ご主人様のおかげで嬉しくてぴかぴかしているのか、
あるいはご主人様のことを愁い過ぎてもの欲しそうな顔をしているのかわからないけれど、
お声をかけていただけるのは女性としては本来は嬉しいことになるだろう。
ご主人様だってたくさんの奴隷調教をしているのだから、
だまってかおるもたくさんのご主人様をつくればいいのに、と悪魔が囁くのだけれど、
単純なかおるはご主人様を裏切るなんてできない。
なにがあっても、ご主人様にぞっこん(古い)なのだから。
「かおるなら60歳になっても押し倒したくなるような女性でいられるよ」と、ご主人様はおっしゃる。
そのときも、ご主人様はいてくださるかしら?
かおるはこれからもっと綺麗になれるのかしら?
明後日はご主人様にお会いできる。
6.7
今日のお弁当は、チーズクリームを塗ったオールブランのトーストと、
豚肉とキャベツの炒めもの、トマト、グレープフルーツ。
パソコンの都合で写真なし。
ここ数日、ノートパソコンにMOドライブを接続させるために四苦八苦して格闘していたのが、
やっと解決した。
ご主人様に撮影していただいたデジカメの画像を3時間かかって移すことができた。
よかった。
画像をプレビューで見た。
撮影しているときは疲れきっていて、あまり判断したり、鑑賞したりする余裕がないのだけれど、
何百枚ものデータを見て、ご主人様の愛を感じて、胸が熱くなった。
ご主人様と一緒に過ごした数日が、夢のように感じる。
ご主人様を愛してる。
6.11
東京はすっかり梅雨に突入した。
ファンヒーターをしまって、エアコンもクーラーに設定したというのに、肌寒い日が戻ってきた。
今日はご主人様にはジムに行くといったものの、いまひとつやる気にならず、
肌寒いといいながらも首輪ひとつで部屋のなかをうろうろしている。
このまえご主人様に剃っていただいたアンダーヘアが少し伸びてきたので、毛抜きで繕う。
毛抜きにはコツがあって、毛の方向に向けて引くとちっとも痛くないし、
毛根まですっぽりと抜けてしまうから面白い。
かおるはこの調子でご主人様のヒゲを抜きたいのだけれど、ご主人様はいつも痛がって抜かせてくださらない。
いつかご主人様が油断したスキを見て、お泊りした翌朝にでも、
ちょっとだけ伸びたヒゲを抜くというのがかおるの夢。
夢といえば、そろそろ手枷とおそろいの足枷ができてくる。
革製で、色は白。
かおるが持っているmoscinoの首輪(もとはといえば犬用)とお揃いに見えて、
着用するととてもエレガントに写る。
次は特注でもいいから、ウエストニッパーも欲しい。
デザインしちゃおうかな。
手枷・足枷をしたかおるの写真...室内よりも野外のほうが似合いそう。
このまえ撮影していただいた写真も、アウトドアのものがなかなかよかったように思う。
ご主人様とはこれからますます「プレイ」ではなくて「撮影部隊」となっていきそうな気配がする。
「かおるはそれでいいの?」と遠くから声が聞こえる。
「ご主人様が今後も撮影を続けるなら、どんどん調教してもらえなくなるよ」
そして「プロのカメラマンになるなら、かおる以外のモデルも大勢撮影することになるんだよ」と。
ご主人様は才能がある。
ご主人様が撮影した写真は絶対にいい。
かおるはご主人様にプロの「官能写真家」になっていただきたいと思う。
かおるは、ご主人様が残してくださる「かおるのいま」を、
のちのち思い返して楽しむことができることがなにより嬉しい。
調教していただくということは、鞭や蝋燭あるいはテレホンセックスだけではないのだと、
最近つくづくと感じる。
もっとも、そのどれもがかおるは未経験なので、いつか教えていただきたいと思っている。
かおるは純粋なMというより、好奇心が旺盛なだけかもしれない。
ご主人様はご自分のことを女性たちを写す鏡だとおっしゃったけれど、
かおるもまたかおるを愛してくださる方を写す鏡なのだと思う。
6.12
東京は夕方から雨が降りしきり、出かける予定も取りやめ。
夕食の材料を買いにいくのもめんどうなので、あるもので作ろう…と思ったら、
たいした材料がない、というかキャベツくらいしかない。
紅生姜と揚げ玉、青海苔、卵があったのでしょうがないのでキャベツだけのお好み焼きを作った。
まずくはなかったけれど、おいしくもなく、ちょっと後悔。
材料を買いに行くべきだったなあ。
気のせいか、関東で買うおたふくソースも味が違うみたい。
って、ソースの問題ではないんだけれど。
ご主人様が作ってくださったお好み焼きの味が恋しい。
大阪に行ったら、また作ってくださいませね。
口直しにコーヒーをいれた。
ここ数年、スノッブなアメリカ人たちはカフェインを嫌い、
デキャフェというカフェインレスのコーヒーを飲むか、
あるいはコーヒーは一切飲まないという人たちもいるのだけれど、
やはり食後にはコーヒーが合うと思う。
ちなみに、ディナーを食べたあとにコーヒーを飲む。
そこまでのコースを「コンプリート・ディナー」(完全なお食事)と言う。
かおるはコーヒーを飲んだところで「おしまい」という感じがする。
そういえば、コーヒーを飲まないはずのアメリカで、
スターバックスのカプチーノが猛威を奮っていうのはどういうわけなんだろう。
ご主人様もコーヒーはあまり召し上がらないけれど、カプチーノならお好きになるかしら。
6.25
かおるの会社で「カレシができたら毎日会いたいかどうか」ということが話題になっている。
不思議なことに、年齢層があがるほど「毎日会いたい」と言うし、
「毎日会いたい」という女性は結婚している。
カレシがいない若者は「1週間に1回でも多い。1ヶ月で1回で充分」と言っている。
かおるはどうかといえば、気持ちは毎日会いたいけれど、実際には週末に会うくらいがいいかな、と思う。
かおるがもし仕事をしていなければ、毎日いっしょにいたい。
いっしょにいて、毎日ご主人様が「奴隷調教」してたら、かおるは悲しいかもしれない。
でも、幸か不幸かそんなことはないし、
かおるは会いたくても1ヶ月に1回くらいしかお会いできないのが現状。
会いたくても会えないというのがいいのかもしれないけれど、
ご主人様はかおるに会えなくてせつない、なんて想ってくださることがあるのかしら。
「かおるのことを想ったら、ここ1、2週間、微熱のような胸苦しさだった」
というラブレターをある方からいただいた。
かおるにはご主人様がいて、かおるはご主人様を愛している。
それを知っているのに、かおるを愛していると言って苦しまれる・・・
というか、苦しまれている
ふりをしてかおるを責めていらっしゃるのに違いない。
かおるは、その方のことを愛してはいないけれど、
なぜか吸い寄せられていくような気持ちになってしまうことがある。
お食事をごちそうになってとりとめのない話をしているときに、
知らず知らずのうちに言葉で縛られている。
つらくて、ご主人様に会いたくて、帰宅するなりご主人様の声を聞きたくなる。
なんでそんなにつらく苦しい想いになるのかわからないけれど、
それが心地よくて、またいつか会いたいような気持ちになってしまう。
会えば会うほどご主人様に会いたくなるとわかっているのに・・・。
それって、ご主人様を愛していることになるのか、それとも背徳なのか、よくわからないのだけれど、
ただ、かおるはいつもご主人様のことを想っていることだけは確かだ。
いつもいつも、ご主人様のことを愛している。